著作物に関する権利の「二階建て制度」について(その2)

atsushienoさんから、トラックバックをいただいた。
http://d.hatena.ne.jp/atsushieno/20060711

選択的な権利

まず、私の理解から書きます。
ベルヌ条約については、国内法に優先して適用されると理解しています。
根拠は、憲法第98条第2項に、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」とあり、条約は国内法としての効力を持つとされています。その効力は、通説によれば、憲法と法律の中間にあるものと解されています。
また、著作権法第5条に、「著作者の権利及びこれに隣接する権利に関し条約に別段の定めがあるときは、その規定による。」とあります。
したがって、ベルヌ条約の規定が、著作権法や、「二階建て制度」の新立法よりも優先して適用されると理解しています。


 文学的及び美術的著作物の保護について、新立法における新権利と、著作権法における著作権との、どちらか一方しか選べないのであれば、この新権利においても、ベルヌ条約の規定を遵守する義務を負うと考えています。
たとえ、著作者が、著作権を放棄して新権利に移行したとしてもです。
契約であるなら、当事者がどのような契約をするかは、公序良俗に反しない限り自由です。しかし、立法であるなら、排他的な権利の制約を受ける第三者のことも考慮しなければなければなりません。
それはそうでしょう。権利が消滅したか否かで、著作物を自由に使えるか否かが決まりますから。
そして、ベルヌ条約では、著作物について(追記: 著作権者の死後)50年の存続期間を保障しています。
この条約の優先適用があると考えます。

真紀奈氏案の検討

真紀奈氏の案には、前回のエントリーでリンクしたページを見ても、不明な点があります。
例えば、新権利の登録後、更新を止めた場合に、新権利の存続期間経過後の権利はどうような取り扱いになるのか。
著作物に関する権利は、すべて消滅するのか。それとも、著作権法による著作権に切り替わるのか。
この点について、atsushienoさんのコメントを読むと、新権利に移行時に著作権は放棄しているので、新権利の存続期間経過後は、新権利による保護もされず、著作権法による保護もされないと解されます。
著作権法においては、著作物は登録なく権利が発生するので、著作物の完成と同時に著作権が発生します。そして、その後に、新権利による保護を受けるか、このまま著作権の保護を受けるのかを選択できるのでしょう。
著作権者は、新権利の効力を享受するとき、著作権を放棄するとされていますが、著作権を放棄するのは、著作物の保護を不要だと考えているのではなく、別の制度に切り替えて、著作物の保護を求めるものです。
この著作権が存続していた期間と、新権利が存続していた期間との合計が、ベルヌ条約で規定する著作物の保護期間よりも短い場合には、ベルヌ条約違反になると考えています。


 真紀奈氏の案についての私の提案なのですけど、せめて、新権利の更新を止めた時に著作権の発生から著作権者の死後50年を経過していなければ、著作権法による保護に戻るというのは、どうでしょうか。

著作権の枠内での改正ではいけないのか

著作権法には、著作物の登録制度というのがあります。
この登録制度を改正して、又は、新権利登録制度というのを著作権法に創設して、登録すれば、真紀奈氏が提案された新権利が得られるという制度ではどうだろうかと思います。
著作権の枠内での改正であれば、存続期間は最低50年は保障されるし、登録期間が経過後は、著作物は著作権により保護されます。ベルヌ条約に違反することはありません。
しかし、真紀奈氏は、現行の著作権法では権利が強大であるという想いで、新立法による権利保護を提案しているではないかと推察します。
また、真紀奈氏が提案された新権利は、同人活動の合法化を目指しているように見えます。
創作活動の活発化という面で、同人活動を軽んずる考えは私にはないのですが、そんなに同人活動って大事なものなのかという疑問は、私の中にあります。

真紀奈氏の考えと白田先生の考えについて

白田先生は、二階建て制度について、講演の二時間のうち、最後のほうのわずかな時間だけお話をされました。
私は、真紀奈氏に会ったことも話したこともないし、白田先生の二階建て制度の話は、わずかな時間でしたので、真紀奈氏の考えと白田先生の考えとが、本当に同じであるのか、違うのかは分かりません。私が聞いた限りは、違うのではないかと感じましたけれども。


私は、上述したように、著作権法の枠内での新権利であるならば、ベルヌ条約違反の虞れがなく、論理的に整合性が取れるという意味で頷くことができるので、首肯することができると書きました。
プロコピーライト思想とは、関係がありませんでした。

追記(7月13日)

ベルヌ条約で義務付けられている著作権の存続期間について、正しくは著作権者の死後50年であるのに、エントリーを書くときには権利発生から50年と思い込んでいたので、追記により修正しました。
atsushienoさん、ご指摘ありがとうございました。