著作権の存続期間の相互主義

id: copyright氏のエントリーに言及します。
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20060404/p1

むしろ、著作権保護期間ベルヌ条約が要求する最低限の期間にしておいて、海外では著作権保護期間は続いているが、日本においては保護期間が終了している、という状況のほうが日本のコンテンツ産業にとっても、有利に働くのではないでしょうか。

最後の文のみを引用したので、当該エントリーの趣旨からは、ずれていると思います。自分の考えを述べるための前振りに使っています。済みません。


引用したところに書かれている、日本のコンテンツ産業に有利に働くというのが、どのような状況を想定されていくのかは、ちょっと分かりかねますが、日本の著作物について、日本では保護期間が終了しているけれど、外国では保護期間が残っているという状況は、考え難いです。
理由は、ベルヌ条約が、内国民待遇の原則を採りつつ、存続期間について相互主義を採っているからです(第七条(8))。
http://www.cric.or.jp/db/z/t1_index.html

第七条
(1)〜(7)は略
(8) いずれの場合にも、保護期間は、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。ただし、その国の法令に別段の定めがない限り、保護期間は、著作物の本国において定められる保護期間を超えることはない。

この規定を受けて、我が国の著作権法では、第58条に同様の規定があります。

(保護期間の特例)
第五十八条  文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約により創設された国際同盟の加盟国、著作権に関する世界知的所有権機関条約の締約国又は世界貿易機関の加盟国である外国をそれぞれ文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約著作権に関する世界知的所有権機関条約又は世界貿易機関を設立するマラケシュ協定の規定に基づいて本国とする著作物(第六条第一号に該当するものを除く。)で、その本国において定められる著作権の存続期間が第五十一条から第五十四条までに定める著作権の存続期間より短いものについては、その本国において定められる著作権の存続期間による。

著作物の本国の保護期間と、同盟国の保護期間とに相違があり、本国の保護期間のほうが同盟国の保護期間よりも短い場合には、その著作物は、同盟国においては、本国の保護期間までしか保護されないということです。
日本以外の同盟国においては調べていませんが、おそらく同様の規定があるでしょう。


具体例の話をしましょう。アメリドイツと日本で同時期に製作された別々の映画があるとします。アメリドイツの保護期間は70年、日本の保護期間は50年とします。
アメリドイツの映画は、アメリドイツでは70年保護され、日本では50年保護されます。
日本の映画は、アメリドイツでは50年保護され、日本では50年保護されます。
同じ時期に製作された映画であっても、アメリドイツでは保護期間が20年違うことになるのです。
国際的に通用する映画であって、アメリカが大きな市場であるのなら、日本の存続期間が短いことは、アメリカに輸出を考える著作権者にとって不利に感じることでしょう。
いっそのこと、海外で大きな興行収益が見込める映画は、日本で製作せず、ハリウッド等の海外で製作し、アメリカで最初に公表するのが得策だと考える著作権者もいるかもしれません。
映画産業は労働集約的ですから、俳優やアニメーターをアメリカに連れて行って製作しても、20年の存続期間の相違を考えればお釣りがくる。そう考えもあり得るのではないでしょうか。

そういうことが実際に起こり得るのか、起こり得る場合、それは日本の消費者にとって、また、日本の映画産業にとって得であるのか。考える価値はあると思います。
映画の著作権については、日本でも存続期間が70年に延長されましたが、その当時の議論では、アニメーション映画等の海外に通用する映画のことが考慮されたのだろうと思います。


ここからは私の考えです。
私は、著作権の存続期間については、既存の著作物を保護するためだけのものではなく、これから生まれ来る著作物を保護するための期間だと思っています。
もっぱら国内で利用される著作物はさておき、国際的に流通し得る著作物については、将来的に日本の著作物が海外で不利な取り扱いをされないように、国外の著作物の存続期間と横並びの存続期間にするということは、理解できることだと思っています。
そういった意味で、日本の著作権の存続期間を、大きなマーケットがある外国の存続期間と横並びにすることは、その外国のマーケットで日本の著作物を保護するという観点から、消極的な賛成をすることは可能だと思っています。もちろん、日本の存続期間が国外よりも突出して長いようなことは、問題だとは承知しております。
こう書くと、私は延長賛成派だと思われるでしょうけど、私は、延長については慎重に考えるべきだと思っています。


著作権の存続期間の延長問題で話が出てくる「著作物保護の国際的調和」というのは、上に書いたようなことを言っているのでしょう。恥だとか恥でないとか、そんなレベルの話ではないはずです。
だから、各分野の著作物について、一律に延長する、しないの議論だけでなく、国際的に流通する可能性のある著作物なのか、そうでないのか、又は、どの程度で国際的に流通するのか、という見方で存続期間の延長の是非の議論をするのも有意義ではないでしょうか。

追記(2006年12月4日)

アメリカは著作権の存続期間について相互主義ではないと知りました。
そのため、アメリカの例を、ドイツの例に変更しました。