知財業界での初体験

本日7月1日は弁理士の日です。
弁理士の日を盛り上げるために、「弁理士の日記念ブログ企画2019」と銘打って、共通テーマで記事を書くというイベントが例年どおり「独学の弁理士講座」のブログで企画されましたので、遅ればせながら参加します。
https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2019/

 

今年のお題は「知財業界での初体験」。
私は明細書を書くことについての思い出を書きましょう。
初めにお断りですけど、おじさんが、昔話をするのは嫌がられると知っています。
けれど、私が知財業界に入ったのは、随分と昔のことですので、初体験はあまり覚えていないし、初体験を書くことは昔話をすることとほぼ同じことになってしまいますのでご容赦を。

 

私は、実務経験ゼロ、法律知識ほとんどゼロ、技術知識は大卒レベルで特許事務所に入りました。明細書作成技術については、一人の指導者に教わりました。
その指導者はグループのボスで、所内で売上げが一番でした(以下、私の指導者を「ボス」と言います。)。
周囲の人から、「ボスは、めちゃくちゃ厳しい。」とか「仕事で怒ると怖い。」と言われ、先に指導を受けた先輩からも「夢の中でボスから怒鳴られて、はっと目を覚ますことが度々あった。」と、お酒を飲みながら聞きました。
実際には、親子ほどの年齢の差があった私には、ボスは優しく指導してくれました。

 

それでも、仕事に厳しいことは垣間見られ、例えば私に対する指導要領として、新件の特許請求の範囲ができあがったら、その時点で一度チェックを受け、そのチェックをクリアしたら、発明の詳細な説明を作成して再度チェックを受けるという流れだったのですが、

明細書
1.発明の名称 A装置
2..特許請求の範囲
 1. Bの周囲にCを設け、該Bと該CとがDの関係にあることを特徴とするA装置。
 2. 前記Bが、Eである特許請求の範囲第1項記載のA装置。

などと書いて、ボスに見せに行ったら、発明の名称がダメだという理由で特許請求の範囲を見ずに突き返されたことがあったりしました。
理由は、特許法施行規則の様式中に、「発明の名称は、発明の内容を簡明に表示するものでなければならない。」とあるところ、私が書いた発明の名称は、簡明ではないからでした。発明の名称でダメ出しされて突き返された人は、所内でも私より前はいなかったんじゃないかと思います。

 

思い出すに、ボスの指導は、「基本を大事にすること」がベースでした。
習いたての頃のある日、唐突に「特許法で一番大事な条文は何条だ?」と問われ「29条です。」と答えたら、「1条だよ。法目的だろ。明細書を書く時も法目的を忘れてはいかん。」と言われました。

また、かな書きは、公用文のルールに忠実であることを求められました。例えば公用文では接続詞は原則ひらがな書きで、例外的に「及び」、「並びに」、「又は」、「若しくは」の四語は原則漢字書きですので、「接続詞はひらがな書きのほうが読みやすい」のような感覚的な理由で「および」、「または」と書くのは厳しく諫められました。

同様に、公用文における漢字使用は、常用漢字表によるものとされているが故に、明細書で常用漢字以外の漢字を書くことは原則禁止されました。例えば「浸漬」と書くのがダメで、「浸せき」と書くよう指導されました。まあ、発明者の確認により「浸漬」に戻すように修正されることも結構ありましたけれど。その場合は発明者に従うのがボスの方針でした。

 

とにかく、何らかの公式なベースや基準があって、それに従って書くよう指導を受けました。
ボスの指導は、血肉になって今でも私の明細書作成のベースになっています。時代に合った書き方というのはありますので、今風にはなっていますけれど。
残念ながら不肖の弟子で、まだまだボスの域には至らないなと、思っています。