著作物の二段階保護

バーチャルネット法律娘、真紀奈氏が提案されている。
http://opentechpress.jp/opensource/06/07/06/2138220.shtml
権利の二段階保護は、興味深いし、あってもいいと思う。
しかし、真紀奈氏の提案する二段階保護案には問題がある。
問題は、新権利が、著作権法の保護下からは外れるとしている点である。
文学的及び美術的著作物については、ベルヌ条約で規定されている保護が、最低限として認められるべきであって、もし、ベルヌ条約で規定されている保護を下回る保護規定がある法律は、ベルヌ条約に違反するという理由で、日本では制定されないだろう。


先日、みみの会で、白田秀彰先生の講演を拝聴する機会に接したが、白田先生が考える二段階保護は、真紀奈氏の提案する二段階保護案とは異なっているように思えた。
白田先生は、商用目的コンテンツについても、著作権法で与えられる権利は基礎としてあって、そして、商用目的コンテンツについては、この著作権に重ねるようにして、著作権法を上回る保護を与えるような二段階保護を考えておられるように思えた。
私が理解したところの白田先生の二段階保護案であれば、首肯することができる。

真紀奈氏の案に対する私の意見

真紀奈氏の提案する二段階保護案について、私の意見を述べる。

1. 新権利は登録と同時に発生する。同時に、著作権法の保護下からははずれ、著作権との二重の保護体制にはならない。

著作権法の保護下から外れるのであれば、登録主義である新権利は、文学的及び美術的著作物に関して、ベルヌ条約の第5条(2)第1文の無方式主義に違反する。
(ベルヌ条約の第5条(2)第1文: 「(1)の権利の享有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。」)

2. 権利期間は5年だが更新を行うことができ、更新を続ける限りにおいて守られる。

文学的及び美術的著作物に関して、ベルヌ条約の第7条(1)に違反する。
(ベルヌ条約の第7条(1): 「この条約によつて許与される保護期間は、著作者の生存の間及びその死後五十年とする。 」

3. 登録及び更新には費用を必要とする。

1.と同様、ベルヌ条約第5条の無方式主義に違反する。


真紀奈さん曰く、

 多分、真紀奈の提案では足りないところもあるでしょうし、これでは動かないという意見もあると思います。そういう意見を真紀奈に向けるだけではなく、政府に対しても送ってほしいわけです。

著作権法を学んでいる私としては、ベルヌ条約とのコンフリクトの可能性について、どうしても気になります。

真紀奈氏が提案する新権利の、権利者側のメリット、デメリットの考察

  • メリット
    • 登録の更新により、権利を永続的に保持できる。
    • 自己の収益を超えて賠償を得ることができる(現在の著作権法では、逸失利益を超えた賠償を得ることができない)。
    • 侵害については非親告罪である。
  • デメリット
    • 著作権の保護からは外れる。
    • 登録という手続きが必要になる。
    • 登録、更新のために費用が必要になる。
    • 他人に供託をされると、他人にコンテンツを使用させる義務を負う。
    • 権利侵害となるような二次利用を、直接的に差し止めることができない

メリットとデメリットとを比較考量すると、権利者が利用したいという気持ちになり難い権利であるような。
それもこれも、真紀奈氏の提案の新権利が、著作権法の保護下から外れるのが根本原因のような気がします。