さらに追記(9月6日)
上記追記に、はてブコメントをいただきました。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/shiranui/20070829/p2
2007年09月04日 inflorescencia copyrights 純粋に疑問なんですが「70年に延長した場合に、権利者のメリットが…」とありますが、70年に延長することを前提にしているのは弊害の程度の問題だからですか?その場合、所有論など正統性はどう解するのでしょうか?
2007年09月04日 shiranui 存続期間終了後の三田氏による新訳のことだと思いますが、違ってるかもしれないのでご返事は差し控えます済みません
2007年09月03日 himagine_no9 2Watchdogs, 著作権 保護期間延長について。50年でとどめておくメリットは、『星の王子さま』の一件で充分象徴されているように思いますが如何ですかね?(追記)三田氏に限らず、多くの訳者による競作がメリットではという話です。
b:id:himagine_no9さんが提示されたメリットは、私が書いたときに考えていた著作権者のメリットとは異なっていました。
私が考えていたことを先に書きます。
排他的権利を有する著作権者と、この権利による制約を受ける利用者とは、利害が相反するといえます。だから、延長問題についても、著作権者と利用者とでは、意見が対立するでしょう。
でも、もし、延長しないほうが著作権者にとってもメリットとなることがあれば、このメリットを著作権者に向けて示すことにより、著作権者の気持ちを延長しない方向へと丸めこむことはできないだろうかと、考えたのです。
himagine_no9さんが提示されたメリットは、利用者にとってのメリットですね。
新訳したのが作家の三田氏であろうと他の翻訳家であろうと、星の王子様の著作権者(サン・テグジュペリの遺族又は権利を譲渡された者)にとっては、新訳が出ることは、名声が得られることは別として、排他的権利に基づく経済的なメリットが得られてはいません。
もちろん、存続期間が短いほうが利用者にとってはメリットがあり、存続期間が50年であることにより、実際に新訳が出たという、利用者が享受する利益は、十分に考慮されるべきだと思っています。
星の王子様に限らず、ヘーゲルの「精神現象学」の長谷川氏訳がかつて評判になったり(私はそのときに新聞の書評で知り、買いはしたものの、まえがきで挫折しております)、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の新訳が今年になって話題になったのも、著作権が切れた後の利用の話ですね。
考えてみれば、著作権が切れなければ新訳が出ないというのは、著作権法の話からは少し遠い話のように思えます。著作権が切れていなければ、日本語訳を出版するには著作権者の許諾が要るし、使用料が要ります。それは了解しているのですけれど、逆に言えば、著作権者から許諾を得て、使用料を払えば、新訳を出せるというのが、著作権法の話のように思えます。
既に出版社から日本語訳が出ている本は、別の出版社が新訳を出さないという業界慣行があるのかも知れませんし、使用料を払う限りは、新訳の出版は商業的成功を目指す必要があります。それがネックになってるのではないでしょうか。
今、私が書いた追記のエントリーを読み返したら、誤記がありました。
存続期間が50年のほうが、
延長しないよりも延長するよりも著作権者にとってメリットがありますよ、ということがない限りは、権利者と利用者との議論は平行線になるのでしょう。
「延長しないよりも」は「延長するよりも」の誤記です。himagine_no9さんに誤解を生じさせてしまったら、済みませんでした。
次に、b:id:inflorescenciaさんのコメントについてですが、法学上の「正統性」の意味を知らなかったので調べました。
http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/archives/000305.html
はい、分かりました。
inflorescenciaさんは、私の追記が70年に延長することを前提にしていることを指摘されていますが、私は、著作権の存続期間を延長すべきだとか延長するのが正しいとは思っていません。かといって延長に絶対反対するものでもありません。
私の追記分は、仮に70年に延長したならばという仮定の話で、著作権者のメリット、利用者のデメリット、デメリットの解消策を、現在と対比して検討すべきということを言いたかったのでして、つまり「仮に」の語が抜けていたということです。70年が前提であるというような、そんなに深い意味はありませんでした。
根無し草のようにふらふらしているのかも知れませんが、私の今の気持ちは、「延長してもいいのではないか。延長するかしないかを決めるのには検討が必要だ」というところです。
これは、私が特許法等を勉強しているからでしょうね。たぶん。
毎年のように行われる特許法等の法改正は、保護強化か審査の促進か国際的調和を理由とするものです。例えば、工業製品の美的創作を保護する意匠法は、今年の4月1日に施行された法改正により、存続期間が15年から20年に延長されました。ネットでは意匠法の改正の反対運動を見たことありませんでしたけど。
そのため、存続期間を延長する改正は、有り得るものだと思っています。
私は著作物の利用者ですから、利用者の立場からいうと著作権の存続期間は延長しないほうがいい。でも、利用者の立場から離れて、延長するという著作権者側の考えも考慮する必要はあると思っています。
著作権法の存続期間が有限であるのは、著作権者のメリットとデメリット、利用者のデメリットとメリットとを調和させて文化を発展させるためでしょう。ですから、これらの著作権者のメリットとデメリット、利用者のデメリットとメリットとを比較考量して存続期間は定められるのであって、最適な期間は50年だろうか70年だろうかと考えているところです。
70年とすべきとは思っていませんので、残念ながらその正統性については、意見を持っていません。
所有論については、inflorescenciaさんに述べられるほどの学を持っていません。どうかご了承ください。