著作権インセンティブ論

著作権インセンティブ論というのがある。
著作権の目的、本質的な意義が、「人々に作品を生み出すインセンティブを与えようとするもの」という考えである。
福井健策氏の著書に書かれている。

著作権とは何か―文化と創造のゆくえ (集英社新書)

著作権とは何か―文化と創造のゆくえ (集英社新書)



Webでは、inflorescenciaさんのエントリーで紹介されている。
http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20061106/1162822933


私は、著作権の本質は、インセンティブではないと思う。
生涯で作品を、たった一つしか作らなった人には、著作権インセンティブとしては機能しなかったことになる(著作権があるために、最初の作品を作ろうと考える人はいないと思う)。しかし、このたった一つの作品も、著作権法により保護される。このことについて、インセンティブ論では説明が付かない。
インセンティブ論は、長らく登録主義、商用利用のみを著作権を保護対象としてきたアメリカの著作権法に適合する考えではないか。
無登録主義の日本では、インセンティブというのは、著作権の本質とまではいえず、著作権の意義としては、副次的なものはないかと思っています。


また、上記の著書では、インセンティブ論の他に自然権論が説明されている。
私は、インセンティブ論と自然権論とは、二項対立するような関係にはないと思うし、また、自然権論の対偶がインセンティブ論になるものでもないと思う。inflorescenciaさんが、インセンティブ論と自然権論とを対で考えられているようにも読めたので、少し違うかなあと思った。
自然権論によらず、インセンティブ論でもない別の考え方は、あり得ます。


例として適切かは分からないけど、白田秀彰氏の「もう一つの著作権の話」
http://orion.mt.tama.hosei.ac.jp/hideaki/another.htm
この文章では、「誘因理論」という語句が出てきます。この「誘因理論」は、「インセンティブ論」と同じだとすると、白田先生は、誘因理論に依らない考え方を提示されています。


インセンティブ論は、著作権保護期間の延長を考える国民会議における、保護期間延長「賛成」「反対」それぞれのワケにおける論点に影響を及ぼしているように見える。
http://thinkcopyright.org/reason.html
しかし、私はインセンティブ論について重きを置かないなので、インセンティブ論を主張している(ように見える)賛成派の点には、同意し難い。かといって、インセンティブ論を否定している(ように見える)反対派の点には、賛成派に対する反論としての説得力に欠けると思う。