創作物と選択物

登録商標阪神優勝」について、阪神球団は特許庁に無効審判(商標法第46条)を請求した。
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/topics/2003aug/29/W20030829MWB2Z100000155.html
私見だが、本件の商標登録は、商標法第4条第1項第15号の不登録事由に違反して登録されたと考えられるので、商標登録を無効にすべき旨の審決がなされる可能性は高いと思う。
無効審決が確定すれば、商標権は遡及的に消滅するので(同第46条の2)、商標権者がこの登録商標を使用する権原は、なくなる。
また、阪神球団から商標権の譲渡料を受け取れる可能性もなくなる。
更に、無効審判における答弁書の提出等の手続きを弁理士に代理すれば、その費用もかかる。
商標登録の有効性について検討し、無効にされそうと判断できたら、阪神球団との交渉において100万円で譲り渡しをしたほうが得策ではなかったか。
http://www.zakzak.co.jp/top/t-2003_09/1t2003090116.html

だが、田沢氏は一貫して「球団が『阪神優勝』を垂れ幕などで使用してもクレームは一切つけない」と主張。金銭面も「私が求めたのは今後もグッズが販売できる権利だけ」とし、こう話す。

 「『億の金が動いた』とする人もいますが、球団が提示したのは100万円で、今まで球団からもらった物は、交渉の席で村瀬(勲)常務におごってもらったアイスコーヒー1杯だけ。例え、準備したグッズがバカ売れしても、私の手元に入るのは200万円程度」

それなのに、なぜ、この商標権者は、自己の登録商標を使用することに、こだわるのだろう。
もしかしたら、この商標については自分が創作した物だから、愛着があると思っているのかもしれない。
しかし、商標法では、商標は、既に世の中に存在している物(文字、図形、記号など)の中から選択した物(選択物)であってもよく、創作した物であるかどうかは、要件とされません。
工業所有権法といわれる特許法、実用新案法、意匠法、商標法のうち、特許法、実用新案法及び意匠法は、創作を保護するものであり、条文にも「創作」という語が出てきます。
これに対し、商標法は、競業秩序の維持と需要者の保護を目的とするものであり、条文には一切、「創作」という語が出てきません。
商標法は、競業秩序の維持という点で不正競争防止法に近く、創作したから保護するというものではない点で、特許法などとは少し違います。
こんなことを商標権者が分かってくだされば、譲渡交渉は決裂しなかっただろうか。