ネットで商標が問題になったときのチェックポイント

ヒウィッヒヒーの文字が商標登録されたのなんのと話題になってたようです。
完全に出遅れというか、もう古くなった話題ですけど、自分の勉強として、気をつけたほうがいい点を書いてみます。
関連リンク
http://d.hatena.ne.jp/ululun/20090813/1250112059 (8月16日追記)
http://www.techvisor.jp/blog/archives/489
http://cytech.way-nifty.com/blog/2009/08/post-27e3.html

商標登録と商標登録出願とは同じではありません。

一般に、行政庁に許可等を求める行為は申請と言いますが、特許、実用新案、意匠及び商標の場合は、「申請」とは言わず、「出願」と言います(特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願、商標登録出願)。
商標登録出願とは、特許庁に対して商標権の付与を求めるために出願人が行う手続きです(商標法第5条)。
これに対して、商標登録は、審査官が商標登録出願を審査した結果、商標権を付与して良いという商標登録査定(第16条)が送達された後に、商標原簿に商標権の設定登録を特許庁長官が行うものでして(第71条)、この商標登録により商標権が発生します(第18条第1項)。
つまり、商標権が発生するのは商標登録によってであって、商標登録出願によってではないのです。商標登録と商標登録出願とは同じではありません。
ところが、ネットで商標が問題になったときには、「商標登録出願」を「商標登録」と言っていることが、よく見られます。
例えば「ギコ猫」や「のまネコ」は商標登録出願されましたが、商標登録されていません。
したがって、問題となった商標が、商標登録されたのか、商標登録出願されただけなのかをチェックしましょう。
ちなみに、出願された商標や登録された商標は、特許電子図書館の初心者向け検索で無料で検索できます
http://www2.ipdl.inpit.go.jp/BE0/index.html
なお、出願した直後は、検索してもヒットしません。出願された商標は公開されるのですが(第12条の2)、出願公開は、出願してからタイムラグがあります。

商標登録出願から商標登録されるまでに時間がかかる

商標登録出願は、特許庁の審査官によって審査され(第14条)、拒絶理由(第15条)がないかを審査されます。拒絶理由がない場合に限って商標登録査定がされ、商標登録されます。
したがって、商標登録出願から商標登録されるまでには時間がかかります。
マドリッド協定議定書の要請により、審査官は出願日から1年6月以内に(商標法施行令第2条)、拒絶理由通知又は登録査定をする必要があります(第16条)。
特許庁の資料によると
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2009_index.htm
2008年の商標の審査期間は(平均で)7.9か月になっています。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2009/toukei/2-1.pdf
だからまあ、ヒウィッヒヒーの文字が商標登録されたという話は、審査期間を考えると疑っていいです。商標登録出願のことだろうと推測するとか。

商標登録出願されたからといって、商標登録されるとは限らない

前述のように商標登録出願は、拒絶理由がない場合に限って商標登録査定がされます。
ですから、商標登録出願されたからといって、商標登録され商標権が発生するとは限りません。
たとえばNTTドコモが「フルブラウザ」について出願したと話題になりましたが、この出願(商願2005-024770)は、第3条1項各号・第4条1項16号を理由とする拒絶理由が通知され、結局のところ拒絶査定がされました。

商標登録され、商標権が発生しても個人的使用には権利は及ばない

商標は、業としての商品の生産者や役務の提供者などが、商品やサービスのために用いるものに付けて表示するものです(第2条第1項)。「業として」という商標法の条文の文言は一般には聞き慣れませんが、「事業として」の意味です。一般には営利目的と考えられます。
コカコーラのロゴが好きで、そのロゴをTシャツに描いて着たとしても、条文の「業として」には当てはまりません。そのTシャツを売れば考える必要がありますが。

商標権は、権利者が指定した商品、サービスとの組み合わせで権利が発生している

商標登録出願のときには、登録を受けたい商標を、どんな商品、サービスに使用するのかを出願人が指定します(第6条)。指定した商品、サービスをそれぞれ指定商品、指定役務と言います。
その出願が登録査定され、商標権の設定登録により商標権が発生したときには、商標権者は、指定商品又は指定役務に、登録商標を使用することができます(第25条)。
また、商標権が発生したとき、第三者は、指定商品又は指定役務及びこれに類似する商品又は役務について、登録商標及び登録商標に類似した商標を使用することができません(第37条第1号)。
つまり、商標権は指定商品又は指定役務との組み合わせで権利が発生していて、指定商品又は指定役務と類似しない商品又は役務を登録商標を使用しても、商標権の侵害にはなりません。
「女子高生」は伊藤ハム登録商標です。なんて話がありますが、検索して調べてみると商標登録第4341990号は指定商品が「べんとう,ぎょうざ,しゅうまい,ピザ,ミートパイ,菓子及びパン」であり、商標登録第4341989号は指定商品が「肉製品,加工野菜及び加工果実,カレー・シチュー又はスープのもと」です。


なお、指定商品や指定役務との組み合わせで商標権が発生しているということは、同一の登録商標について、指定商品や指定役務が異なるために別の商標権者による複数の商標権が存在していることがあり得ます。
たとえば登録商標twitter」についても、指定商品「柔軟仕上剤(洗濯用のものを除く。),染色助剤,静電気防止剤(家庭用のものを除く。)」について、別の権利者が存在します。

商標権の効力が及ばない場合が規定されています。

商標法第26条に、商標権の効力が及ばない場合が列挙されています。商標権の効力が及ばない例は、審査時の拒絶理由と重複しており、つまり、拒絶理由があるのに見逃されて商標権が発生しても、商標権を他人に行使することはできないのです。

登録商標が商標として使われてない場合は訴えが認められません。

判例になるのですが
指定商品「包装用容器」の登録商標「巨峰」の商標権者が、ブドウ農家が巨峰を出荷するために巨峰の文字が付してある段ボールの製造業者を訴えて、訴えが認められなかった例、
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/5226E75C40A61C6549256A76002F8A95.pdf


指定商品「印刷物」の登録商標「POS」の商標権者が、「POS実践マニュアル」という題号の書籍を販売した者を訴えて、訴えが認められなかった例、
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7E0A3BF8CAF8BFC649256A76002F8B37.pdf


指定商品「レコード」の登録商標「UNDER THE SUN」の商標権者が、「UNDER THE SUN」というアルバムタイトルの音楽CDを販売した者を訴えて、訴えが認められなかった例、
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7A0ABAABDA01ACF249256A7600272B2B.pdf


があります。
この「UNDER THE SUN」の裁判の判決文から引用すると、
「……したがって、以上の三六条、三七条及び二六条の法意に照せば、第三者登録商標と同一又は類似の商標を指定商品又はこれに類似する商品について使用している場合でも、それが、その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されていると認められる場合には、登録商標の本質的機能は何ら妨げられていないのであるから、商標権を侵害するものとは認めることはできない。」


阪神優勝」という登録商標が問題になって、商標登録無効審判により登録が無効となりましたが、阪神タイガースの優勝記念グッズに、この「阪神優勝」の文字を付しても商標権の侵害にはならないという解釈も可能だったでしょう。

登録商標が既存の著作物と類似しているとき、著作物を利用することに商標権による制限はありません。

先願優位の原則というのがあって、著作物が完成したのが登録商標出願日と同日又はそれ以前である場合は、著作物と商標の図形とが同一又は類似であっても著作物の利用が商標権により制限されることはありません(第29条)。
のまネコ問題のときは、もしも、のまネコの商標登録出願が設定登録され、商標権が発生したら、モナーアスキーアートが使えなくなると言われていましたが、正しくありません。

最後に

と、まあ、いろいろ書きましたが、Wikipediaにはwikipedia:商標問題という項があり、その中に「商標問題を招く商標法の誤解」という見出しがあるので、こちらもご覧になってください。