意匠法等の改正
現在開かれている通常国会に、意匠法等の改正案が提案される。
この改正案が国会で修正されることは、まずないので、この改正案どおりに改正され、来年に施行されるだろう。
改正案の内容は、特許庁に記載されている。
http://www.jpo.go.jp/torikumi/kaisei/kaisei2/ishou_houreian.htm
上記した特許庁のページには、概要と、法律案要綱と、法律案と、新旧条文対照表と、参照条文とがpdfファイルで公開されている。
これらのpdfファイルのうち、概要を見れば、その名のとおり改正のアウトラインが見えると思う。私は受験しているので、新旧条文対照表を見たほうが頭に入る。
意匠法については、情報家電等の操作画面のデザインの保護対象を拡大し、初期画面以外の画面や別の表示機器に表示される画面についても、保護されることになる。保護される画面の具体的な例としては、ビデオ録再機の操作画面や、デジカメの液晶モニターの設定画面が示されている。
このような保護対象の拡大のために、実際の改正条文では、保護対象である意匠の定義が追加されている。
現行の意匠法において「意匠」の定義は、第2条第1項に記載されている。
(定義)
第二条 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
今回の改正により、この第2条第1項に次いで、第2項として次の条文が追加される。
2 前項において、物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする。
一言で言うと、操作画面を部分意匠として保護するということですね。
この意匠法改正について、(ユーザー)インタフェースとの関係でMatzさんが懸念されているので、少し考えてみます。
私の意見を、結論から書くと、「ユーザーインターフェースに全く影響がないとはいえない。しかし、操作画面でも意匠として保護する価値のあるものはある。特許庁の法解釈及び運用をフォローしつつ後日あらためて考えてみたい。」です。
まず、意匠法で保護される「意匠」とは、どんなものかから書きましょうか。「意匠」というのは、一般に言われている「デザイン」とは違う点がありますので。
法上の「意匠」は、上掲した第2条第1項(及び今回の改正で導入される第2項)に記載されているように、「物品の全体又は部分の形状等であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」です。この条文から、次のことがわかります。
- 意匠は、物品と一体不可分のもの。
したがって、物品から遊離したデザインのみでは保護されません。必ず、ある物品のデザインとしてでないと保護されません。
この物品とは、高田先生の意匠法の本に書いてあるように、「有体動産であって、定形性及び取引性を有するもの」というのが有力な解釈です。そして、具体的には、意匠法施行規則の別表第一の右欄に記載されている程度に区分された物品です。したがって、「機械」のように包括的な物品について保護を求めることはできません。(共通するデザインを多物品で意匠登録したい場合は、その物品ごとに意匠登録出願をしなければなりません。)
- 意匠は、視覚を通じて美観を起こさせるもの。
「視覚を通じて」というのは、砕いて言うと、「見た目そのまんま」ということです。ユーザーインターフェースというと、機能が問題とされることもあると思いますけど、意匠では、ボタン等がどのように配置されているか、という見た目だけが問題となり、機能については問題としません。もちろん、OKボタンやキャンセルボタンが配置されていれば、それらのボタンは機能を表してはいますけれど。
次に、現行法における操作画面の保護について書きます。現行法においても、初期画面は、部分意匠として登録することができます。
特許庁のサイトの意匠登録出願の願書及び図面の記載に関するガイドラインに、「第10章 液晶表示等に関するガイドライン(部分意匠編) (PDF形式 120KB)」というpdfファイルがあります。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/zumen_guideline/paper10.pdf
このガイドラインを読めば、液晶表示等が部分意匠として保護されるためには、
- 物品の表示部に表示される図形等が、その物品の成立性に照らして不可欠のものであること
- 物品の表示部に表示される図形等が、その物品自体の有する機能(表示機能)により表示されているものであること
- 物品の表示部に表示される図形等が、変化する場合において、その変化の態様が特定しているものであること
の3要件が必要とされています。逆にいえば、この3要件を満たせば、登録され得るということです(もちろん、新規性や創作非容易性を満たす必要があります)。
初期画面は、「物品の成立性に照らして不可欠のもの」と考えられますから、現行法でも登録され得ます。
しかし、初期画面から移り変わった操作画面や設定画面は、現行法では保護されません。上記した「物品の成立性に照らして不可欠のもの」とはいえないからです。
現在では、DVDレコーダの操作画面のように、初期画面ではない操作画面や設定画面に工夫を凝らすことが多いでしょう。このような工夫については、意匠として保護されるものがあると思います。
そこで、操作画面や設定画面について、初期画面でなくても保護されるようにしようというのが、今回の法改正の立法趣旨だと思われます。
以上のことから考えて、今回の改正法が成立したとしても、パソコンのソフトウェアの画面のような汎用品の画面については、現行法と同様に保護されません。また、物品と遊離した設定画面、操作画面のデザインのみについても保護されません。
とはいえ、ユーザーインターフェースに全く関係がないとはいえません。
今は、特許庁の解釈や運用を待ちたいと私は思います。