著作権と遵法と

テラヤマアニさんが、著作権とパクリと遵法と企業と個人のお話について書かれています。
http://d.hatena.ne.jp/kowagari/20050621/1119342107
これを読んで、思ったことを書きます。
私は特許事務所勤務という、知的財産に携わってお給料を貰っているので、立場が違うし、考え方が違います。だから、自分の考えの表明というか。


テラヤマアニさんのエントリーでは、著作権侵害について主に刑事的な面から述べられています。(法律を民事と刑事と分けたときの刑事という意味です。)
故意に著作権を侵害すれば刑事罰の対象となりますので(著作権法第119条)、確かに罰を受けないようにするに著作権を侵害しないようにする必要があります。
しかし、著作権を侵害してはいけないのは、それが刑事罰になるからでしょうか。それだけじゃないと思うのです。
物事をたとえ話でするのは、話の焦点がずれる可能性があるのですが、少しやってみます。
他人のお金を盗んだ場合は、窃盗罪に該当します。では、その盗んだお金が1000円ぐらいだったら逮捕されるでしょうか。そんなお金で警察に突き出す人はほとんどいないだろうと思います。だからといって、1000円ぐらいだったら、盗んでもいいのかといえば、そうではないでしょう。また、盗んだ人と盗まれた人との問題だから、盗むことを第三者咎めるのはおかしい、ということもないでしょう。
罰があるから盗んでいけないのではないのです。
これを倫理だと考えることもできるのですけど、その前に、民法の取決めだとも考えることができます。
他人のお金を盗んではいけないのは、財産の私的所有を認め、個々の人が所有している財産は不当に奪われないという考えが無意識にあるからでしょう。
所有権というか、所有物は他人に不当に奪われず、奪われた場合には返還を求める権利があるというのは、民法の考え方です。
そして、著作権というのは、知的財産権とか知的所有権とか無体財産権とかいわれるように、所有権や財産権の一つです。(そもそも、著作権法という特別法に対する一般法は何かというと、民法ですし。)
思想や感情の表現が、財産的な価値を有していることから、そのような表現を財産の一つと考えて保護しましょうよ、というのが著作権法の考えです。
だから、著作権の遵法については、刑事的な面だけでなく、人の財産は不当に奪われないという民事的な面からも考える必要があると私は考えています。


で、知的財産というのは、なかなか観念しがたいものです。お金や物などの動産や、不動産だったら、現物があるので、他人の「物」を奪ってはいけない、所有権を侵害してはいけないというのは即座に理解できるでしょうけれど。著作物というのは「思想又は感情を創作的に表現したもの」なんて抽象的にいわれても、ピンとこないというか。
それに、著作権という権利は、国家により創設された権利なので、各人が意識しないと、権利ということが理解されない。意識しないと侵害かどうか分からないし、それに今は簡単にコピーできるので著作物の権利は侵害され易い。
でも、そんな著作権というのは、著作物が財産的価値を有しているのだから、他の財産と同じように尊重されるべきものだと思うし、各人が意識して権利を侵害しないようにすることが大事だと思う。財産権の一つとして著作権を遵法しましょうということです。


著作権の侵害というのは、もう少し考える必要があって。
著作権者の許諾を得ないで著作物の複製などをしたら著作権の侵害だけど、許諾を得ていたら、著作物の複製などをしても著作権の侵害ではありません。当たり前のようだけど、同じコピーという行為をしていても、著作権者の同意の有り無しで、著作権の侵害か非侵害かが、全く反対の結果になる。
著作権者からすると、許諾をするかしないかというのは、著作権者その人の考え次第であって、変な話、好き嫌いで決めてもいい。そんなものだから、著作権者以外の人は、著作物が許諾されるかどうかなんて、明示されている場合を除いて分からない。
私としては、著作権者の意思が分からない、そういったグレーな場合には、著作物の複製などの行為は避けるというスタンスを取っています。
テラヤマアニさんは、私が勝手に深読みすると、著作権者の意思が分からないグレーな場合に、著作権者が許諾してくれるだろうと予測する範囲に限って複製をしようと、ご自身の基準を定められているのだろうなあと思ったりします。テラヤマアニさんの考えや行為について私は是非を言うつもりはないです。
ただまあ、一般的には、著作権者の考えが分からない場合には、著作権侵害の可能性があるということで、複製などの行為は止めておくべきだとは思います。




これ以降の文は、付け足しというか、上で書いたことからは少し外れます。
テラヤマアニさんのエントリーでは、JASRACに関して「小学生の歌の会で音楽流したら著作権法違反だから金払えと。」いうことが書かれています。これは何か違っている点があるように思えます。
小学生の歌の会で音楽を流すことは、著作権の制限として規定されている、営利を目的としない上演等に該当すると考えられるので、音楽の著作権保有者の権利侵害にはならないからです。

(営利を目的としない上演等)
第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
(第二項以降は省略)

JASRACについて私は、歌詞の引用の解釈が厳しすぎるとか、料金体系が硬直化しているとか、いろいろ問題はあると思っているけど、小学生の歌の会の話は違うのではないかと思いました。
(追記: 6月28日)
「小学生の歌の会」を「幼稚園の演奏会」に訂正されましたので、Googleで調べてみたところ、以下の日記に書いてあることのようです。
http://d.hatena.ne.jp/DayTripper/searchdiary?word=JASRAC