特許侵害差し止め、使用権供与後も認める・最高裁

http://it.nikkei.co.jp/it/newssp/ipr.cfm?i=2005061704681xi
妥当といえば妥当というか。
元々、専用実施権が特許権の全範囲に設定されたとしても、特許権侵害に対する差止請求権特許権者に残されているというのが、過去の判決にあり(東京地判昭39年3月18日、ズボン腰裏地事件)、学説でも支持されていた(例えば、吉藤幸朔著「特許法概説第13版」第565頁、増井和夫・田村善之著「特許判例ガイド第2版」第406頁、牧野利秋・飯村敏明編「知的財産関係訴訟法」第54頁)。
ところが、この最高裁判決がされた元々の事件の地裁判決で、これに反する判示がされたので、話題となった訳で。
平成15年2月6日判決 東京地裁 平成13(ワ)21278 特許権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/F00C33D190D6C10B49256D39000E301C/?OpenDocument

特許権に専用実施権が設定されている場合には,設定行為により専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については,差止請求権を行使することができるのは専用実施権者に限られ,特許権者は差止請求権を行使することができないと解するのが相当である。けだし,特許法の規定する差止請求権(同法100条)は,特許発明を独占的に実施する権利を全うさせるために認められたものというべきであって,第三者の請求する特許無効審判の相手方となり,無効審決に対して取消訴訟を提起するなどの特許権の保存行為とは異なり,特許権者といえども,特許発明の実施権を有しない者がその行使をすることはできず,また,行使を認めるべき実益も存しないからである。

この事件の控訴審では、原判決がひっくり返った。
H16年2月27日判決 東京高裁 平成15(ネ)1223 特許権 民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/F51862D2A0CFC5DE49256E9E002C4F34/?OpenDocument

原判決は,特許法100条に基づく権利は,特許発明を独占的に実施する権利を全うさせるために認められたものであるから,専用実施権を設定したことにより実施権を有しない特許権者については,その行使を認めることができない,また,その権利の行使を認めるべき実益もない,と判断した。
 しかし,特許法100条は,明文をもって「特許権者又は専用実施権者は,自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる。」と規定している。しかも,専用実施権を設定した特許権者にも,次のとおり,上記権利を行使する必要が生じ得るのであり,上記権利の行使を認めないとすると,不都合な事態も生じ得る。これらのことからすれば,専用実施権を設定した特許権者も,特許法100条にいう侵害の停止又は予防を請求する権利を有すると解すべきである。
 専用実施権を設定した特許権者といえども,その実施料を専用実施権者の売上げを基準として得ている場合には,自ら侵害行為を排除して,専用実施権者の売上げの減少に伴う実施料の減少を防ぐ必要があることは明らかである。特許権者が専用実施権設定契約により侵害行為を排除すべき義務を負っている場合に,特許権者に上記権利の行使をする必要が生じることは当然である。特許権者がそのような義務を負わない場合でも,専用実施権設定契約が特許権存続期間中に何らかに理由により解約される可能性があること,あるいは,専用実施権が放棄される可能性も全くないわけではないことからすれば,そのときに備えて侵害行為を排除すべき利益がある。そうだとすると,専用実施権を設定した特許権者についても,一般的に自己の財産権を侵害する行為の停止又は予防を求める権利を認める必要性がある,というべきである。

そこで今回の最高裁判決。最高裁判決は、東京高裁の判決を支持した。
平成17年6月17日 第二小法廷判決 平成16年(受)第997号
http://courtdomino2.courts.go.jp/judge.nsf/dc6df38c7aabdcb149256a6a00167303/91b7c932cb069c45492570230010f962?OpenDocument

 特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができると解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
 特許権者は,特許権の侵害の停止又は予防のため差止請求権を有する(特許法100条1項)。そして,専用実施権を設定した特許権者は,専用実施権者が特許発明の実施をする権利を専有する範囲については,業としてその特許発明の実施をする権利を失うこととされている(特許法68条ただし書)ところ,この場合に特許権者は差止請求権をも失うかが問題となる。特許法100条1項の文言上,専用実施権を設定した特許権者による差止請求権の行使が制限されると解すべき根拠はない。また,実質的にみても,専用実施権の設定契約において専用実施権者の売上げに基づいて実施料の額を定めるものとされているような場合には,特許権者には,実施料収入の確保という観点から,特許権の侵害を除去すべき現実的な利益があることは明らかである上,一般に,特許権の侵害を放置していると,専用実施権が何らかの理由により消滅し,特許権者が自ら特許発明を実施しようとする際に不利益を被る可能性があること等を考えると,特許権者にも差止請求権の行使を認める必要があると解される。これらのことを考えると,特許権者は,専用実施権を設定したときであっても,差止請求権を失わないものと解すべきである。