5月5日のコメントについて
11日の予定と書きましたが、遅くなりました。
小倉秀夫さんから5月5日の日記のコメント欄にてコメントをいただきました。
「情を知って」所持する行為を違法行為とする条項は、それまで適法だった行為を情を知らされたとたんに違法行為に変えてしまう不意打ち的な側面を有しています。それを回避するのであれば、113条2項のように、「これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り」といった文言を用いたりしますね。今回の改正法案は、単に「情を知って」という文言が用いられていますから、小売店は、情を知らされたとたん、国外販売目的商業用レコードを頒布目的で所持し続けること自体犯罪行為とされるということになろうかと思います。
小倉さんと私とでは、国外販売目的商業用レコードについての解釈が異なりますので、不意打ちかどうかの推測も異なってくるかと思います。以下では、国外販売目的商業用レコードには日本での頒布を禁止する旨の表示が必要だ、という私の解釈の下で書きます。
「小売店は、情を知らされたとたん、国外販売目的商業用レコードを頒布目的で所持し続けること自体犯罪行為とされる」かどうか。
国外販売目的商業用レコードが、私の解釈のように日本での頒布を禁止する旨の表示がされているものであるなら、そのような国外販売目的商業用レコードを頒布目的で所持し続けることは、情を知っているときには犯罪行為とされる場合があるでしょう。
しかし、この国外販売目的商業用レコードというものには、繰り返しになりますが私の解釈では、日本での頒布を禁止する旨の表示がされています。ですから、小売店は、輸入業者から納品を受けるとき、あるいは自ら海外で買い付けをするときに、お店で陳列する音楽CDについて、その音楽CDが国外販売目的商業用レコードであるか否かは判別することができます。
ジャケットに日本での頒布を禁止する旨の表示があるかどうかを見ればいいのですから。
したがって、小売店は、国外販売目的商業用レコードについては販売しないという選択をすることができますし、販売しないという方針で所持することもなければ、犯罪行為にはなりません。
そして、国外販売目的商業用レコードであることを分かっていながら、敢えて販売している小売店は、この条文の適用により著作権侵害になることは承知のうえで、販売していると考えられます。
それならレコード会社から通知を受けて「情を知った」後に、国外販売目的商業用レコードを頒布目的で所持し続けても、刑法上の犯罪になり得ることは覚悟のうえのことでしょうから、不意打ちにはなりません。
また、国外販売目的商業用レコードを置いている小売店は、レコード会社から通知を受けて情を知ったとされるとき、その後の所持行為が著作権侵害とならないように、輸入した国外販売目的商業用レコードを廃棄する必要があります。
しかし、小売店は、輸入業者との間に、国外販売目的商業用レコードを納品しない旨の契約をすることができるでしょう。このような契約をしていれば、仮に廃棄する事態が生じたとしても、その廃棄処分により生じた経済的な損害を、輸入業者に賠償させることができるので、小売店の損失にはなりません。
一方、小売店に納品する輸入業者は、ジャケットの表示を有無をみて、国外販売目的商業用レコードであるか否かを判別でき、国外販売目的商業用レコードでない音楽CDを納品することができるので、国外販売目的商業用レコードを納品しない限り、小売店から損害賠償請求をされることはありません。
したがって、輸入業者も小売店も、本条の適用により、不測の損害が生じる可能性は少ないだろうと思います。
不意打ちを回避するためには、ご指摘のように「取得した時に情を知つていた場合に限り」という文言にすべきかどうかの立法技術については、私の能力を超えていますので判断できないですが、「国外販売目的商業用レコード」の要件により、不意打ちは回避されているのではないかと考えます。