角川書店の「NPO」という商標登録について

今日は、少し前に話題になった、角川書店が「NPO」という文字について商標登録をした件について書いてみましょうか。
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200306/04/20030605k0000m040064003c.html

記事によれば、他のNPO法人が新聞・雑誌の名称にNPOの文字を使えなくなることが問題だとしているようです。
しかし、本当に問題でしょうか?

商標権は、同一又は類似の指定商品に、同一又は類似の商標を付して使用する場合に侵害となります(商25条、37条1号)。
この類似の商標というのは、対比する商標を外観、称呼又は観念の観点から相紛らわしいか否かで判断されます。
例えば、「NPO」と「NPO研究ニュース」という両商標を対比すると、外観も、称呼も観念も非類似と考えられますから、他の法人が「NPO研究ニュース」という雑誌を発行しても角川書店の商標権の侵害にはならないと思います。
つまり、「NPOという文字を含んでいれば、全て角川書店の商標権の侵害になる」という考えは、誤りです。
ですから、NPO法人が「NPO」という題号の雑誌を発行するならともかく、それ以外の場合は、問題になる場合は少ないと思います。

もう一つ、商標の機能の点から書きましょうか。
商標法が保護する商標は、自他商品識別機能を本質的機能として具備している必要があるばかりでなく、出所表示機能及び、品質保証機能を具備している必要があります。
逆に言えば、形式的に商標権の侵害に該当する使用の場合であっても、

それが自他商品識別標識としての機能を果たすような態様で用いられているとはなし得ず、したがって登録商標と具体的出所の混同を生ずるおそれがなく、その他その機能を害するおそれが明らかに認められる場合においては、商標権の侵害とはならない

というのが、通説及び判例です(引用は、「商標」(有斐閣)、網野 誠 著からです。)。
例えば、「POS」という商標の商標権者が、「POS実践マニュアル」の文字を書籍の題号を付した他人を訴えた裁判で、商標権の侵害とはならないとされました(東京地裁、昭和63年9月16日)。判決文から引用すると、

被告標章は、いずれも単に書籍の内容を示す題号として被告書籍に表示されているものであつて、出所表示機能を有しない態様で被告書籍に表示されているものというべきであるから、被告標章の使用は、前説示に照らし、本件商標権を侵害するものということはできない。

このような機能侵害の観点から考えると、NPO法人NPO活動の付した雑誌等にNPOを含む文字を含む題号を付したとしても、角川書店の商標権の侵害になる場合は稀ではないかと考えられます。(稀って書いても、どんな場合が侵害か分からないかな。NPO法人の法人名が「NPO」の場合だったら、侵害になります。)

以上の考察から、他のNPO法人が新聞・雑誌の名称にNPOの文字を使えなくなるので問題だというのは、誤りに近いと思います。
■追記
網野先生の「商標」を読んだら、3条1項3号に関して次の記述があった。

商標の登録に際しては、それが題号として使用されることまで配慮する必要はなく、商標として機能する範囲においてその識別力の有無を判断すべきであって、題号として使用される範囲においては、商標権の効力が及ばないものとして解決すべきであると考えられる。