輸入権について私なりのまとめ

並行輸入版「バラッド3」の記載の一部

手元にある音楽CDのうち、並行輸入盤があるかを調べてみたら、サザンオールスターズの「バラッド3」が台湾盤であった。これは、正月に故郷へ帰省した時に、実家の近所のレコード店で買ったものである。
この「バラッド3」について、ジャケットの一部をスキャナに取り込んだものが、今日の日記の右上の画像である。
この画像の下から2行目に「 in Japan is prohibited.」と書いてあるのがわかるだろうか。この注意書きの英文を転載すると次のとおりである。

Original sound recordings licensed by Victor Entertainment, Inc., Japan. Manufactured & distributed by UMG-What's Music International Inc., Taiwan. All rights reserved. Sale of this compact disc outside of Taiwan, Malaysia, Singapore & Hong Kong is strictly prohibited. The distribution and sale of this product in Japan is prohibited. Warning: Unauthorized reproduction public performance broadcasting and making transmittable of the recording is prohibited by application law and subject to criminal prosecution

日本での流通と販売が禁止されていることが分かる。つまり、この音楽CDは、著作権法の改正で追加される第113条第5項の「専ら国外において頒布することを目的とするもの」であって、「国外頒布目的商業用レコード」に該当する。
このようなジャケットへの記載は、日本でレコード輸入権ができることを見越したためではなく、台湾でプレスする現地法人と日本のレコード会社との契約条項によるものであろう。


ジャケットに、日本での流通と販売を禁止する旨の記載があっても、現在の著作権法上は、何の法的効果をも持たない。だから、業者が日本に並行輸入しようが著作権侵害にはならないのである。
これに対し、著作権法が改正された後は、このような記載がジャケットにある音楽CDを日本で販売するために並行輸入すると、著作権の侵害となり得るということである。
このような法律の適用は、洋楽の音楽CDの場合も同じであって、ジャケットに上述のような「The distribution and sale of this product in Japan is prohibited.」などの記載がある場合には、著作権の侵害となり得る。
しかし、ジャケットに記載がない場合には、「日本に輸入し販売してもよい」音楽CDと区別がつかないのであるから、「国外頒布目的商業用レコード」とは云えず、著作権侵害にはならないであろう。
(ついでに書くと、「US Version」という記載では、米国盤を意味しているに過ぎず、米国盤であることのみをもって、日本への輸入や日本での販売が禁止されているものではないし、また、「US Only」という記載では、何がOnlyなのかが必ずしも明らかでないため、いずれも日本への輸入や日本での販売が禁止されているとは、云い得ない。)
ジャケットに表示がなくても、レコード会社が輸入業者に対して内容証明郵便を出せば侵害になり得るというのは、法文の解釈上、理論的には考えられるのかも知れないが、現実に争いになった場合に、裁判所は著作権の侵害だとは認めないだろう。それぐらいに可能性の低い解釈だと思われる。
レコード輸入権を反対するにしろ賛成するにしろ、可能性があるかないかで意思を決めるのではなく、可能性があるとして、どの程度の可能性なのかを考えることは重要であろう。


レコード輸入権に反対していた人の多くは、この第113条第5項として追加される条文が、邦楽洋楽の区別なく適用でき、したがって、洋楽の音楽CDについての並行輸入が禁止されないようにするための歯止めがないことを法案への反対理由としているように思えた。
しかし、この条文では、ジャケットに必要があるという点で歯止めがあるといえよう。
邦楽であれば、国外でライセンスを受けてプレスする音楽CDについて、日本への輸入や日本での頒布を禁止する旨の表示をすることは、容易であろう。現に、ジャケットには表示されている。
一方、洋楽の場合は、本国のジャケットについて、日本への輸入や日本での頒布を禁止する旨の表示を、新たに加える必要がある。
それも、今後はプレスする全ての音楽CDに、機械的に表示しておけばいいというものではない。
日本盤が出ないアルバムに日本への輸入や日本での頒布を禁止する旨の表示がされていれば、税関で輸入が差し止められる可能性が高くなるので、日本で販売されて利益を得る機会が減ることになる。
だから、洋楽のレコード会社が、レコード輸入権を行使しようとするときには、アルバムの企画時点で日本盤を出すか出さないかを決定して、本国のジャケットに表示するようにする必要がある。
それは従前に比べて手間のかかることであり、そのような手間をかけるくらいなら、レコード輸入権を行使しないという策も、あり得ると思われる。
海外のレコード会社にとって、本国よりも市場の小さい日本で並行輸入盤の輸入を禁止することにより予想される利益の増加と、本国のジャケットにわざわざ日本での販売を禁止する旨の記載をする手間と、その他の事情を勘案して、どちらが合理的な結論になるかということである。
私は、海外のレコード会社は、レコード輸入権を行使しない可能性のほうが高いのではないかと予想する。
この点、5大メジャーがレコード輸入権の不行使を表明している。
http://www.satokenichiro.com/chosaku001.htm
この確認書を信じないのは簡単だが、今まで述べたことを勘案すると、信じることもできよう。


音楽CDのジャケットに表示がなくても、内容証明郵便を輸入業者に送れば、著作権の侵害になり得るというのは、条文の「専ら」の語を必要以上に軽視して解釈しているよう思われる。
どちらかというと妥当性の低いものにみえる。
妥当性が低いように思われるが、その解釈は、並行輸入される洋楽の音楽CDが輸入規制され得るという解釈を導くため、人々の関心を強く惹き、反対運動は盛り上がった。
しかし、妥当性が低いがゆえに、多くの国会議員の賛同を得られず、法案は修正なく可決されたと私はみる。
このレコード輸入権は、再販制度との関係もあり、問題がないとはいえない。
本間忠良氏の意見は、とても考えさせられる。
http://www013.upp.so-net.ne.jp/tadhomma/AnarchoMusic.htm
だが、再販制度との関係で問題あるからレコード輸入権に反対といっても、世論がどれだけ盛り上がっただろうか。
盛り上がらなければ、みんなが著作権について考えることもなかったので、どのような反対運動をすべきだったかは分からない。
ただ、洋楽の音楽CDが並行輸入できなくなるという煽りにより、反対運動をしたにもかかわらず、法案が修正なく可決された結果を見て、政府や国会は信じられないという政治不信の人が増えただけだったら、残念に思う。