著作権法改正によるレコード輸入権について

世間で騒がれているみたいですが、忙しくて流れを追っていないので言及するのはどうかと思っていたけど、まとめのページを読んで、少し考えてみましょう。
私が見た、まとめのページは次のサイトです。
http://sound.jp/stop-rev-crlaw/index.html

レコード輸入権に関する私の意見を最初に表明すると、レコード輸入権の創設なんて、レコード業界の悪あがきというか、みっともない改正だなと思っています。
あまり賛成しないというか。


ただ、この著作権法改正案が本国会で成立すると、洋楽の並行輸入版の音楽CDが買えなくなるかというと、そうならない可能性のほうが高いと思います。
そのことを考えるのに、まず、改正により追加される条文を、上記のまとめページからのリンク先に記載された衆議院のサイトから見てみましょう。

国内において頒布することを目的とする商業用レコード(以下この項において「国内頒布目的商業用レコード」という。)を自ら発行し、又は他の者に発行させている著作権者又は著作隣接権者が、当該国内頒布目的商業用レコードと同一の商業用レコードであつて、専ら国外において頒布することを目的とするもの(以下この項において「国外頒布目的商業用レコード」という。)を国外において自ら発行し、又は他の者に発行させている場合において、情を知つて、当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布する目的をもつて輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもつて所持する行為は、当該国外頒布目的商業用レコードが国内で頒布されることにより当該国内頒布目的商業用レコードの発行により当該著作権者又は著作隣接権者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限り、それらの著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。ただし、国内において最初に発行された日から起算して七年を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した国内頒布目的商業用レコードと同一の国外頒布目的商業用レコードを輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもつて所持する行為については、この限りでない。

この条文から、著作権又は著作隣接権の侵害行為に該当するための要件としては、
・そのレコードが国外頒布目的商業用レコードであること、
・情を知つていること
・輸入する行為に、国内において頒布する目的があること、
著作権者又は著作隣接権者の得ることが見込まれる利益が不当に害されること、
などが挙げられます。
(逆にいうと、これらの要件を一つでも外れると、権利侵害にはなりません。)


さて、国外頒布目的商業用レコードについての要件を考えると、権利侵害だと著作権者又は著作隣接権者が訴えるときに、輸入されたレコードが国外頒布目的商業用レコードであることを立証する責任は、著作権者又は著作隣接権者側にあります。つまり、訴える側が、輸入されたレコードが、国外頒布目的商業用レコードであることを証明しなければなりません。単に、著作権者又は著作隣接権者が、日本では販売しないように思っているだけでは、本条文は適用されないんです。
そう考えると、レコード輸入権が適用されるためには、音楽CDなどのジャケットに、「日本での販売を禁ずる」旨の表示が明記されている必要があるでしょう。


これは、「情を知って」の要件の適用についても関連します。
輸入者が「情を知っている」ことの立証責任もまた、著作権者又は著作隣接権者側にあります。この情を知っていることの要件は、単にリセラーなどに文書で通知する程度では満たされないと考えます。
音楽CDなどのジャケットに、「日本での販売を禁ずる」旨の表示が明記されていれば、その表示されている事実をもって、輸入者が「情を知って」いることを立証できるのだろうと考えます。


以上のことから、本条文が適用されるためには、音楽CDなどのジャケットに、「日本での販売を禁ずる」旨の表示が必要になると考えます。


ここで、海外のレコード会社は、自国向けに販売する音楽CDの一枚一枚に、「日本での販売を禁ずる」旨の表示をするでしょうか?
日本に輸入されるかどうかも分からないのに。
長くても7年間を経過すれば効力がなくなる表示なのに。
私は、海外のレコード会社は、そんな、みっともないことはしないんじゃないかと思っています。ジャケットのデザインを損なうので、その点でもみっともない。
結局は、「日本での販売を禁ずる」旨の表示のために要するコストと、レコード輸入権の行使による利益増加との兼ね合いになるのでしょうけど、こんなみっともないことをしてまで、海外のレコード会社は、利益増加を図りたいものなのでしょうか?
私は、そこまでしないんじゃないかと。可能性としてはあり得るけど、私だったら、そんなレコード会社の音楽など、聞きたくないって気持ちです。


私が洋楽の並行輸入版の音楽CDが買えなくはならない可能性のほうが高いと思う理由は、以上のことからです。


最初にも書いたように私は、レコード輸入権の創設について、あまりよく思っていません。
山形浩生さんの評論は、バランスが取れててよいと思った。
http://www.be.asahi.com/20040410/W12/0025.html