不十分であってもエルマークは、やったほうがいい

商標法は、ダウンロード適法化のための制度ではないので、不十分であるというのは、そのとおりだろう。でも、エルマークは、実効があるので不十分であっても、やったほうがいいと思うし、また、違法アップロードの啓蒙になると思う。
ダウンロード違法化の関係で考えると、仮にダウンロード違法化が実現したときでも、エルマークの表示がされていないというだけで、直ちに違法だ、とはならないだろう。具体的な事実関係を考慮して、総合的に判断されるだろう。


inflorescenciaさんの、「商標の機能と適法なダウンロードからみるエルマークの不十分さ」を読んで、上記のことを思いました。
http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20080221/1203583597
はてなブックマークコメントでは文字数が足りないので、ダイアリーに書きます。

商標それ自体では「利用者が迷うことなく当該音楽配信サイトが適法かを識別できる」ことを担保することはできないのだ。

エルマークによって、「利用者が迷うことなく当該音楽配信サイトが適法かを識別できる」ことを担保することは可能だと、私は考えています。
エルマークが通常使用権の許諾により、RIAJとその構成員以外のサイトで表示されるとき、通常使用権の契約において、「違法な音楽ファイルを含まないこと」を条件とすれば、この契約により、当該音楽配信サイトは、適法な音楽ファイルのみを含むことを担保できます。
契約違反したら、ライセンスをエルマークの使用者から取り上げればいい。

いろんなブランドで偽装問題が指摘されていることからもわかるように、商標は基本的には出所識別機能を通じて品質保証機能を保護しているのであり、そこで保証される「品質」というのは結局のところ、需要者の「期待」に留まる。実際の品質を保証しているわけではない。それは、前回購入したときの良し悪しとか、まわりの評判といったものに近くて、品質の実証性は乏しいと言える。

これは、商標に限って言えば別に悪いことでもなんでもない。仮に、あるブランドがグローバル化の波に押されて生産工場をアメリカから中国へ移したとする。その結果、品質に違いが生じたとして、それで商標が剥奪されるなんてことはない。あるいは、現地の法人にライセンスを与えることで、各国の商品の品質が異なるものになったとしても、それぞれに同じ商標を付けて構わない。

品質が劣悪になっても、同じ商標を付けても構わないのですが、それによって信用が毀損し、不利益を蒙るのは商標権者です。商標法の保護対象が、商標に化体した業務上の信用であることを考えると、商標権者には、信用を落とさないように、一定の品質を維持するようなインセンティブが働きます。
また、商標権者には、通常使用権者に対する監督義務が課されており(商標法第53条)、品質の誤認を生ずるような使用がされ、使用権者の監督義務を果たさない場合の制裁措置として、登録商標が取り消されます。商標法第53条は、劣悪な商品を提供して需要者の期待を裏切った場合にも本項の適用があるとされています(工業所有権法逐条解説第16版第1221頁)。したがって、エルマークを有するRIAJは、ライセンスした表示サイトに違法音楽ファイルが含まれないように条件を課すでしょうし、また、ライセンスを受けていないサイトでのエルマークの使用を排除するでしょう。
以上のことから、エルマークによって「利用者が迷うことなく当該音楽配信サイトが適法かを識別できる」ことを担保することは可能だと考えます。
inflorescenciaさんは、次エントリーで、エルマーク=「合法ダウンロード」の証明、と書かれているので、エルマークによって当該音楽配信サイトが適法かを識別できると既にお考えかも知れませんけれど。

そして、エルマークに宣伝広告機能が蓄積することを期待しているとしたら、結構費用対効果の悪い戦略じゃないか?

エルマークのライセンス料は無料であることを考えると、費用対効果が悪いというのが、私には分かりませんでした。


inflorescenciaさんは、ダウンロード違法化のことを見据えつつエルマークを考察されるので、問題点を指摘されているのでしょう。私は、エルマークそれ自体は、必要最小限の効果しか得られないとしても、やったほうがいいと思います。
エルマークが認知されれば、掲示板にアップロードされた商用音楽ファイルは、違法にアップロードされたものだとの認識が、需要者に広がるようになるでしょう。それば、啓蒙活動ではないでしょうか。