MS弁護士の話と対比した日本の特許法

マイクロソフトの弁護士がアメリカの特許法の改正について語っている。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0503/11/news071.html
これを日本の特許法ではどうなっているかを書いてみよう。

スミス氏は、米特許商標局(USPTO)が課す出願料をほかの予算分野に割り振る議会の慣行を永久に中止するべきだと訴えた。

日本では、特許特別会計法に基づいて、一般会計と区分して経理されている。
参考資料: 経済産業省のサイトにある特許特別会計の財務資料
http://www.meti.go.jp/policy/sougou/yokessan/041005zaimusyorui05.pdf

同氏は、第三者が法廷の場以外で特許に対する異議を唱えられる、特許付与後異議申立て制度の確立を提案した。
現行法では、出願された特許はUSPTOサイトに掲載されるが、審査が完了するまで第三者が意見を述べたり、介入することは許されない。

日本では、特許付与前の異議申立て制度が、平成6年法改正により、特許付与後異議申立て制度になり、更に、平成15年法改正により、異議申立て制度が無効審判制度に統合された。
参考資料: 特許庁のサイトにある改正法の解説
http://www.jpo.go.jp/shiryou/hourei/kakokai/sangyou_zaisanhou.htm
また、出願公開された発明については、特許法施行規則第十三条の二に従い、誰でも特許庁に対して、発明が新規性を有しない、又は、進歩性を有しない等の旨の情報を特許庁に提供することができる。
参考資料: 特許庁のサイトにある「特許庁への情報提供について」
http://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/tt1210-037_sanko2.htm

悪質な訴訟のリスクを最小限に抑えるために、Microsoftは連邦地裁レベルですべての特許関連訴訟を受け付ける特殊な裁判所の設置を推奨した。

民事訴訟法の改正により、昨年の4月1日より、特許権実用新案権等に関する訴訟の第一審は,原則として東日本地域を東京地方裁判所,西日本地域を大阪地方裁判所がそれぞれ管轄することになったらしい。
この日記を書くのにGoogleして、初めて知った。
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/20040413.html
つまり、知財関係事件の経験が豊富な東京地裁、大阪地裁で集中して審理しようということだろう。
ちなみに、高裁レベルでは、昨年成立した知的財産高等裁判所設置法が今年の4月1日より施行され、東京高等裁判所知財高裁が設けられる。
参考資料: 首相官邸のサイトにある知的財産高等裁判所設置法の概要
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/hourei/tizai_s.html

スミス氏は、「故意の侵害」の基準を改正し、真に悪質な侵害行為に限定すべきだと主張した。

アメリ特許法では、故意で侵害した場合には、懲罰的に三倍の賠償金を支払わなければならない場合がある。そのため、故意であるか否かが重要となる。
日本では、三倍賠償制度は、平成10年の法改正時に導入が検討されたが、導入されなかった。
現行法では、民法709条に基づき、故意又は過失により特許権を侵害した場合に、逸失利益について損害賠償することになる。
損害額の算定については、特許法102条に特則がある。平成10年の法改正では、第102条第1項の規定が追加された。
なお、特許権を侵害した場合には、過失があったものと推定される(特許法第103条)。

例えば米国では、最初に発明した人に特許権が付与されるが、(他国が採用している)最初に出願した人に特許を与える「先願主義」を導入すべきだと同氏は訴えた。

日本(というか米国以外のほとんどの国)は、先願主義である。
具体的には、特許法第39条。

また米国は、出願後18カ月以降はすべての特許案件を公開するという国際的慣行に従うべきだとスミス氏。

日本では、出願後1年6か月を経過したときに全ての出願案件が公開される(特許法第64条)。
米国特許法で全ての出願を公開することは、1994年の日米包括経済協議の合意事項である。これを受けて1999年に米国特許法の法改正がされ、出願の公開制度が導入されたが、外国に出願をしていない出願については、出願人の申請により非公開とされるという抜け道がある。
参考資料: Googleして見つけた「米国特許実務ノート」。これを見ると米国特許法でも第三者特許庁に対して情報提供できるらしい。
http://www.marushima.net/notes/pb.htm

最後にスミス氏は、個人や小規模企業に「出願料ゼロ制度」を適用し、特許出願を促したいとした。

日本では、出願手数料を軽減、免除又は猶予する制度はない。出願手数料は、1件につき1万6000円である。
もっとも、特許になった後に特許権者が毎年支払う特許料については、個人や小規模企業などの資力の乏しい者に対して、特許料の軽減、免除又は猶予がされる場合がある(特許法第109条)。
特許庁に支払う出願手数料と、特許事務所に出願手続きを代行してもらう場合の特許事務所に支払う料金とは別。
特許事務所の料金がどれくらいかは、google:特許事務所+料金で、何となく分かるだろう。