iPhoneのフリック入力に関して特許のこと

たつをさんの「たつをの ChangeLog」にて、iPhoneフリック入力について書かれています。
http://chalow.net/2008-09-22-1.html

申請はしたけれども、それっきり、ということみたいです。
ということは、特許化されてないわけだから、
この技術って誰でも自由に使えるってことか!?



特許屋の私からすると、一件の特許出願が特許にならなかったからといって、その特許出願で特許を受けようとする発明に関する技術が自由に使えるかというと、そんな単純ではないです。

一般論として

フリック入力の特許について調査してないですけど、一般論として、iPhoneフリック入力が抵触する可能性のある特許というのは、本件の特許出願以外にも存在し得るからです。

  • 同じ出願人による関連出願
  • 別の出願人による特許又は特許出願

同じ出願人による関連出願は、アイデアを思いついて一件の特許出願をした後に、そのアイデアを改良したり応用したりした特許出願のことです。基本特許を出願した後に、その周辺の技術についても特許出願をして、全体として他社から模倣されない強固な特許とする場合もあります。
また、別の出願人から同じようなアイデアによる同じような特許が出願されることがあります。特許出願するときは、出願が無駄にならないように先行技術調査をすることが多いですが、その調査は検索者の技量によるし、また時間やコストとの兼ね合いですから、必ずしも完全に網羅されているとは限りません。また、特許出願は、その内容が明らかにされる出願公開がされるまでは出願日から一年六月の期間がかかります。ですから、この出願日から一年半の間は、他人が先行技術調査をしても調査結果としてヒットしません。
だから、

実は申請時すでに公知の技術だった、
ということもありそう(ないだろうけど…)。

こういうことも実際にはあり得るのです。その公知技術が、仮に他人の特許である場合には、その他人の特許の技術的範囲に含まれる技術は、自由に実施することができなくなるので、問題になりますね。
だからまあ、iPhoneの入力の特許については単純に考えるのではなくて、もう少し慎重に特許を調査するのがいいです。

Hanabi」の特許出願の経過

以上のことを書いて終わっちゃったら、いいっ放しのような気がしたので、私も少しだけ調べてみました。
エントリー中にあるリンク先の
iPhoneの日本語入力は「Hanabi」だ! (Newton アロハ通信)」
http://hawaii-walker.com/blog/?p=229
Hanabiの特許出願の番号は特願平10-285333であることがわかります。
出願番号が分かれば、特許庁のホームページから特許電子図書館のサイトに行って、「経過情報検索」によって誰でも無料で調べることができます。入力様式に従い、H10-285333と、すべて半角文字で入力してみてください。
検索結果のページにリンク貼れないので説明しにくいですけど、結果には[基本項目]と[出願情報]の二種類があって、[出願情報]のほうが詳しく書かれています。
この[出願情報]によれば、本件の特許出願は、審査請求がなされ、審査官による審査がされました。そして、特開平8-272787号公報、特開平10-049272号公報の合計2件の特許公開公報を引用して、新規性又は進歩性がないから特許を受けることができないという理由により、拒絶査定がされています(発送日: 平成20年4月1日)。


Hanabiの特許出願が拒絶査定になっているということは、特許になっていないのですが、拒絶査定で引用された公報の特許出願が特許になっているかどうかが気になるので、調べてみましょう。
Hanabiと同様に特許電子図書館で「経過情報検索」を用いて調べます。

特開平8-272787号公報

出願番号は特願平07-071509です。
これは五角形のペンタッチ領域の頂点にそれぞれa i u e oと振ってあって、中心から放射線状にスライドさせることによって文字入力するのものですね。

この特許出願は、審査請求がされないで、みなし取下になっています。


特開平10-049272号公報

出願番号は特願平08-238302です。
これは菱形のマルチファンクションキーボードで、十字方向に押すことによっても文字入力できるようになっています。

この特許出願は、特開平5-265618号公報を引用して、進歩性がないという理由で拒絶査定になっています。
それで、この引用された特開平5-265618号公報の特許出願が、特許になっているかどうかを、更に調べてみましょう。


特開平5-265618号公報

出願番号は特願平04-258826です。
これも四角形のマルチファンクションキーボードで、上下左右方向に押すことによっても入力できるようになっています。

この特許出願は特許になっています。特許3314276です。

特許3314276とiPhoneフリック入力との関係

特許3314276が見つかりましたから、特許3314276の特許請求の範囲にiPhoneフリック入力が含まれるかどうかは、一応検討したほうがいいと思います。
特許3314276の特許請求の範囲は、特許電子図書館で誰でも無料で調べて見ることができます。
特許3314276を見ると、キーの物理的な形状でスイッチしていますからiPhoneのソフトウェアキーボードは特許請求の範囲に含まれないでしょう。
あとは均等論によって特許発明の技術的範囲に含まれるかを検討する必要があります。私は、入力装置の技術分野に詳しくないのですが、一見すると均等ではないように思えます。


とまあ、特許屋は、こんなことを考えますよってことで。
フリック入力の技術が誰でも自由に使えるかについて判断してないのは、ごめんなさい。

追記(9月24日)

ただ、まあ、Hanabiの特許出願が拒絶査定になっていること、Hanabiの関連出願がなされてないこと、Hanabiの特許出願を拒絶査定にした先行技術の特許出願もまた、特許になっていないことから考えると、iPhoneフリック入力の技術については、結果的に有効な特許がなくて最初のたつをさんの推測のとおり、誰でも自由に使えるんじゃないか、という気もしています。
特許調査していないので歯切れが悪くて申し訳ありませんが。