著作権法の輸入権と特許法の並行輸入問題との関係

今回の著作権法改正における、いわゆるレコード輸入権の創設については、特許法において特許製品を並行輸入する行為が特許法の侵害になるか否かについて争われた、有名な最高裁判決がアイデアの元になっていると思います。
そう思うのは私だけではないでしょう。
例えば、海外盤CD輸入禁止反対のまとめサイトにおける関連リンクページの二番目に書いてある、
ファースト・セール・ドクトリンの明確な位置づけなくして、レコード輸入権の創設なし

文化庁が、レコードに『日本国内販売禁止』の表示をすれば、国際消尽に対抗しうると考えた根拠は、平成9年7月1日判決のBBS事件最高裁判決であると見られる。

この特許法の真正商品並行輸入問題(BBS事件)についての判決文は、最高裁のサイトから次のページ。
http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/VM2/3FD1A34CA50ADF5049256A8500311DB5?OPENDOCUMENT
著作権法輸入権との関係でポイントになるところは、要旨のところに書いてあるとおり、

我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において当該特許発明に係る製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、その後の転得者に対しては譲受人との間で右の旨を合意した上当該製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権に基づき差止請求権損害賠償請求権等を行使することはできない

ということです。
この判旨から、逆に、製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を製品にこれを明確に表示していれば、我が国において特許権を行使できると考えることができます。
著作権法においては、第26条の2の規定により、著作権者が著作物を適法に譲渡した後は、その著作物についての譲渡権は国際消尽し、したがって、著作物を輸入する行為は著作権の侵害にはなりません。しかし、上記のように製品に日本での頒布を禁止することを明示していれば、著作権の侵害だとすることができるようにも考えられます。
このような考えを元に、今回のレコード輸入権が創設されたのだと思います。


さて、上掲した特許法における判決文では、並行輸入製品に対して特許権を行使するには,明示する必要があることが示されているに止まり、具体的にどのような表示が必要かは示されていません。したがって、表示の具体的内容について、いろんな議論がされています。
例えば、「新・裁判実務大系 知的財産関係訴訟法」,牧野利秋、飯村敏明編,青林書院(ISBN:4417012199)の第148〜149頁(片山英二著)では、
・「日本への輸出はできません」などの表示をする(「ドイツ国のみで販売」では不十分との説や「all rights in Japan reserved」では足りないとの説あり)、
・英語で足りる、
などの考えが示されています。
このような議論は、レコード輸入権におけるジャケットへの表示についても参考になると思います。